本当に挫けそうになった時もあったけど、様々な人のおかげでなんとか踏ん張れてる私がいます
2024年10月に広島で先行上映、11月に東京で封切。その後、全国で上映され、たくさんの人に愛されてきた『KYロック!』が、今年10月に神奈川は横浜シネマ・ジャック&ベティ、11月に東京は池袋シネマ・ロサにて上映される。
インディーズ映画ゆえ、上映に漕ぎ着けるのも難しければ、「宣伝広告費も無い」という状況で全国を駆けずり回って。上映が決まった地域で、地道な宣伝活動を続けてきた前田多美監督。ここでは池袋&横浜での上映を記念して、広島での先行上映から現在に至るまでの『KYロック!』のこれまでの軌跡と全国で行ってきた宣伝活動、さらに「作品制作で抱えた借金返済」の実情まで、前田監督に話を聞いた。
文:フジジュン
▪️『KYロック』あらすじ
「人生はまだ終われない」。60 歳を迎えようという孝祐(こうすけ)の胸中は密かに燃えていた。唯一無二の友、豊(ゆたか)や仲間たちとのロックバンド「KYブラザーズ」の活動に本腰を入れるために、長年勤めていた会社を早期退職。第二の人生を切り開いていくはずだった。そんなある日、還暦ライブを目前に豊が突然孝祐を拒絶し、バンド脱退を宣言する。人生の門出に立つ孝祐にふりかかる友情の危機。立ちはだかる長年のコンプレックスという壁。50 代終盤になって迷い込んだ、まるで青春時代のような葛藤の中で、孝祐は新しい一歩を踏み出せるのか。
■出演
加藤雅也/ミカカ/大塚寧々/ROLLY/國武綾 他
予想の半分に満たない動員に「私、どうするんだろう……?」って
――『KYロック!』が広島で先行上映されてから約10ヶ月が経ちました。僕も作品観させてもらって、ロックを愛してロックを信じる男たちの意地とプライド、それを越えた友情にグッときました。
前田 ありがとうございます。
――この作品の封切が昨年11月16日、東京・池袋シネマロサ。その前の10月12日から広島・横川シネマで先行上映というところからスタートしました。
前田 まず、「インディーズ映画の人たちが宣伝活動をするのにどういうことをやるか?」というところからお話すると。私だけじゃなく、みんなで劇場でチラシ配りをしたり、お店にポスター掲示のお願いに回ったり、すごく地道なことから始めるんです。それから、可能な限り著名な方に見ていただいて、コメントをもらったり、おすすめしてもらったりして。著名な方から発信していただくことによって、気付いてもらうというのも大きいですよね。
そこで、今回はそういう人たちも出演者として多くいるので、そこをめっちゃ頑張らなくても良いってところでも、イケるだろうというのがあったんです。普段はインディーズ映画なんて観ない人も来てくれる可能性があるし、もちろん映画のファンもいる。そこで広島の先行上映は上映期間が4週間あったので、頑張ったら2,000人は来てくれるだろうと思ってたんです。その後、東京で封切になるんですが、東京も4週間上映していただいて。劇場の方も「2,000人目標にしましょう」って期待して下さっていると感じていました。
――シネマ・ロサは、インディーズ映画のファンや理解が深い方も多い劇場ですしね。
前田 そうなんです。4週間の上映をあらかじめ決めていただけるというのは、そうそうないことなので。それだけ期待して下さってるということでもあるんです。なので、広島と東京の上映時期を詰めてもらって。それだけの動員があれば、関西の人も気にしてくれるはずなので、その熱量が下がらないうちに関西で上映してもらえたらなと考えて。私は大阪出身でもあるので、大阪、神戸、京都での上映を昨年末から今年の年始にかけてお願いして。
そこまでいったら、借金も返せるだろうと思ったんです。具体的にいうと、その時点で抱えてた借金が5,000人入らないと返せないくらいの金額だったんですが。広島、東京、関西で完済出来るだろうって。
――広島で2,000人、東京で2,000人。関西で少なく見積もって、1,000人だとしても、合計5,000人は超えるわけですからね。
前田 そう思っていたんですけど、概数を言うと、結果としては広島の先行上映の動員が900人、東京が600人。悪い結果というわけではないんですけど、目標の半分にも満たない動員で。「これはヤバい!」という気持ちを抱えて、関西に行くんですが。広島、東京、関西の上映期間を詰めちゃったから、関西の上映に向けての宣伝活動がスケジュール的に回らなくなっちゃって。関西向けのマスコミへのアプローチとか、そういったところも全く手が回ってない状態で。最後の悪あがきで、回れるところを回ってチラシ配りもやったりしたんですけど、関西もぼちぼちという結果で終わってしまって。
もう、これはいよいよピンチだなと。「借金をこれだけ抱えて、大都市圏での上映はほぼ終わっちゃって、私、どうするんだろう……?」となるんです。関西の上映が終わった時には、「本当に詰んだな」と思って、図書館行って「奇跡を起こす本」みたいなのを読んだりして。
――あはは、ついに奇跡頼りになっちゃったんですね(笑)。
前田 その本に書いてあることは、「そんなの知ってるよ、全然奇跡じゃねぇよ!」ってことばかりだったんですけど、まぁ映画を一本完成させること自体、奇跡に近いものもあるし。「もう奇跡を起こしてたのかもなぁ」と思ったり。で、唯一やってなかったのが「SNSに晒せ」という手段だったんですが。私、SNSが苦手だし、気が進まなくて、こっそりブログで「借金返済日記」っていうのを書いたりして(笑)。で、お金がないからぜんぜん経費もかけられない中、次は九州での上映ということになるんです。
――九州は今年1月、大分・別府ブルーバード劇場、佐賀・唐津THEATER ENYAで上映しました。
前田 別府は初めてで、唐津は前の作品ですごく良くしてもらってという状況だったんですが。お金はなくても宣伝しなきゃいけないので、九州出身の助監督・シミズコウタと豊役のミカカさんと3人で車で行きまして。いままでは私、行き当たりばったりでお店に入って、チラシを置いてもらったりしてたんですけど。シミズくんがお店の人とちゃんと会話をして、「映画好きな人とか、チラシ置いてくれそうなお店知りませんか?」って情報を聞くということをやりだして。
彼はGoogleMapも使いこなしてたので、教えてもらったお店をバババッとマーク付けて、行ったお店はまた違ったマーク付けてみたいなやり方を私も教えてもらって。その効果もあってか、別府は初めてにしては、舞台挨拶もなかなか盛況となったんです。唐津にはもう一人、監督補の宮川(博至)さんが駆けつけてくれて、宣伝活動をして下さって。
――お金もかけられないから最小限の経費と人員で、宣伝活動を頑張ったんですね。
前田 あとその頃、誰も悪くないのになんだかツイてないみたいな微妙な不運が続いていて。例えば、少しでも客単価を上げられるように、東京で好評だったトレーナーを追加発注したんだけど、次の上映を決めてもらえる時期が4月になっちゃって。めちゃくちゃ暑くて、トレーナーなんか着てる時期じゃなくなってしまったり(笑)。それでも前向きにやろうと思って、4月の名古屋での上映時には、大分でやってた宣伝方法を私も真似てやってみたんです。
「こういう映画なんですけど、好きそうな方と出会えるお店ってありますか?」って聞きながら、いろんなお店を回っていたら、「連日満席にしてやりましょうよ!」って応援してくれる人たちが初めて出来て。連日満席は叶わなかったんですけど、地元の人たちがそう言って一緒に動いてくれるのが、すごく嬉しかったし心強かったです。
――名古屋は愛知・シネマスコーレで、4月に上映がありました。
前田 名古屋ではそういう人たちが、私の借金返済日記も読んでくれて、「見たよ、詰んでるね」って(笑)。だからブログに書いたのが良いことといえば、良いことだったとも思ったし、やっと熱が帯びてきた感じがしてきて。それと同時に次の上映予定の新潟に連絡をしたんですけど、新潟もすごく熱くて。前作の「犬ころたちの唄」もすごく盛り上がったんですけど、名古屋の話をしたら前作のファンの人たちがすごく応援してくれて。「新潟も負けてらんねぇ」みたいな感じになって、私が滞在する期間は有給を取って、一緒にいろんなお店を回ってくれる人まで出てきたんです。
あと、Negicco(新潟のご当地アイドル)の生みの親の熊倉維仁さんが、広島出身というだけで「広島から姪っ子が頼ってきたようなもんだよ」と、すごく応援してくれて。メディアを紹介してくれたり、ポスターを持って回ってくれたり、ものすごく力を貸してくださったんです。結果として、新潟は日割で30人のお客さんが入ってくれて、日割の動員で東京を抜いちゃったんです。人口比率から言ったら、すごいことですよね。
――新潟はシネ・ウインド、その後は長野でそれぞれ5月に1週間の上映がありました。
前田 長野は知り合いもいないし、行ったこともないからすごく不安だったんです。でも、新潟の方から紹介いただいた方に会いに行ったりしながら、名古屋と同じように街の人たちの直接の口コミでお店を訪ねて回りました。その時ですよね? 本当にたまたまフジジュンさんともお会いしてラジオに出演させてもらったりして。結果、1週間で91人の動員だったんですけど。自分で直接会って宣伝するという、地道な宣伝方法の強さというところの手応えを感じました。
考えたら、知り合いも全くいない、宣伝費もほとんどないから宣伝にお金をかけることも出来ないのに、91人の動員があったってことは、私が直接会った人たちが、誰かしらを連れて来てくれたりしたってことなんですよ。奥さんと一緒に来て下さったり、バーのマスターがお客さんに奬めてくれたり。リアル口コミで伸びたっていうのを感じたのが長野だったんです。
――各地で様々な宣伝方法を学んで試して、動員数とかで実証していく中で、効果のある宣伝スタイルを見つけていったんですね。
前田 はい。数字的に爆発みたいなことにはならなかったけど、じわじわと熱量が上がって、ファンが確実に増えていってるというのを実感しながら、一歩ずつ前に進んで行けてる感があって。そこからの広島での凱旋上映になるんです。
後編はコチラ
『KYロック』関東上映
2025年10月18日(土)〜
横浜シネマ・ジャック&ベティ
2025年11月8日(土)〜
池袋シネマ・ロサ(アンコール)
『KYロック』HP:https://kyrock-movie.com/