(左から前田多美監督さん、ミカカさん、加藤雅也さん、大塚寧々さん、國武綾さん)2024年11月16日池袋シネマ・ロサ舞台挨拶
本当に挫けそうになった時もあったけど、様々な人のおかげでなんとか踏ん張れてる私がいます
2024年10月に広島で先行上映、11月に東京で封切。その後、全国で上映され、たくさんの人に愛されてきた『KYロック!』が、今年10月に神奈川は横浜シネマ・ジャック&ベティ、11月に東京は池袋シネマ・ロサにて上映される。
インディーズ映画ゆえ、上映に漕ぎ着けるのも難しければ、「宣伝広告費も無い」という状況で全国を駆けずり回って。上映が決まった地域で、地道な宣伝活動を続けてきた前田多美監督。ここでは池袋&横浜での上映を記念して、広島での先行上映から現在に至るまでの『KYロック!』のこれまでの軌跡と全国で行ってきた宣伝活動、さらに「作品制作で抱えた借金返済」の実情まで、前田監督に話を聞いた。
前編はコチラ。
文:フジジュン
ROLLYさんは広島に来れなかったけど、その想いや言葉がありがたかった
――そして6月末から、広島は八丁座、呉ポポロシアター、シネマ尾道、福山駅前シネマモードの4都市での上映となりました。
前田 ここまでやってきた中でようやく手応えみたいなものを感じ始めたところで、広島での4都市同時上映があって。このタイミングでROLLYさんも来てくれることになって、すごく気合いが入ってました。ROLLYさんってすごく情の深い方で。SNSをチェックして、「監督、見ましたよ。ポスターぐるぐる巻いて、街を練り歩いてたんでしょう?」とか、私が何をやってるのかもちゃんと見て下さってて。「僕は分かりましたよ。この映画は瞬発力はないけど、じわじわと熱量が上がっていって、しっかりヒットする作品なんですよ! 広島でやりましょう!!」と言って下さったのが心強かったし。名古屋、長野は著名人を舞台挨拶に呼ぶことが出来なかったけど、そこそこ結果が出せたので。作品の力も信じられるようになってました。
そこで、ここまで高まってきた作品そのものに対する熱量に加えて、ROLLYさんと巡る広島凱旋上映となれば、「1週間で1,000人というのは目標に出来る数字なんじゃないか?」と思ったんです。劇場にもいまだかつてないくらいの問い合わせが入っていたそうで、やっと大きな手応えも感じていて。広島が上手くいけばなんとなくゴールも見えると思ったので、「広島凱旋上映を頑張り抜いたら、一旦休憩していいよ」って自分に言い聞かせて、「とにかく走り抜こう!」と思って。各都市を回って、「ROLLYさん来るんですよ!? 満席でお迎えしましょう!」って必死で宣伝して回りました。で、もういよいよだっていう、初日の4日前。ROLLYさんのマネージャーさんから、「網膜剥離で緊急手術することになって、どうなるか分からない」ってご連絡があって……。
――うわぁ……仕方がないことですけど、期待してただけに呆然としちゃいますね。
前田 それでその翌日、「3日間入院することになったので、広島に行くのはちょっと無理です」って連絡があって。ROLLYさんは喋るのもシンドいくらいだったんですけど、「本人もすごく悔しがってるから、電話で対応。出来るところは、電話出演します」と言って下さったんですよ。登壇が叶わなかったのは残念だったけど、ROLLYさんが電話出演して下さったことで、来てくれた人たちはみんな温かい気持ちで帰ってくれたので、集まってくれたお客様を残念な気持ちにさせずに済んだというのは、本当にありがたかったですね。ただ、そこには本当に感謝の気持ちしかないけれど、数字という視点では、またもや目標の半分以下という結果に直面するのは、結構な打撃でした。
――ROLLYさんだけに頼るわけじゃないけど、舞台挨拶をキッカケに作品を見てくれて。そこから口コミでさらに広がってという可能性を考えたら、かなり悔しいですよね。
前田 そうなんです。上映に来てくれた方が、「すごい良かったです。一回観たら面白いって分かるのにね」って言ってくれて。「そうなんです。一回観てもらうまでが、すごく大変なんです……」って感じで。ROLLYさんが来れなかったのは残念でしたけど、「4日間張り付いて、広島凱旋やりましょう」と言って、スケジュールを空けてくれた時点で私は感謝しかないんです。実際、それキッカケで知って、観てくれた人もたくさんいますし。
ROLLYさんは最後の電話出演の後、私が「ありがとうございました」ってお礼を言っていたら、「今回、こんなことになってしまって本当に申し訳ないです。ただね、本当に僕はね。この映画がお客さんの心を温かくする映画だと思ってるんですよ。きっとこれからまだまだいけるはずだから、頑張ってね」と言って下さってすごく勇気づけられました。でも、「もうやれることはやったし、どう頑張れるんだろう?」という気持ちもあって……。
お客さんが「良い時間だった」と思ってくれるという喜びを見失いたくない
――その後、11月の池袋と横浜での上映が決まるわけですよね? そこで自分の気持ちを奮起させるには、どうしたんですか?
前田 自分を奮起させたのは、ROLLYさんの言葉はすごく大きかったです。でも、あまりに不運が続くから怖くなっている自分もいました。「なにか憑いてるんじゃないか?」と思って、霊能力者の方に相談したんです。映画ってたくさんの人が関わるから、悪霊が憑いてるみたいな話って実際あって。霊能力者の方に、「もう破産するしかなくて……」と言いかけたら、「いや、ここから巻き返すんで見てて下さい!」って食い気味に言われたんですよ。
それで、「祓わなきゃいけない悪霊もいないし、いけるのが見えちゃったんです」っていうから、「じゃあ、なんでこんなについてないんですか?」って聞いたら、「跳ねる前に落ちるのは当然です」って。さらに、「そもそもあなたに映画を撮らせてる霊が二人憑いてるんだけど、一人は大林宣彦監督、一人は女優の山岡久乃さん。二人とも作品を楽しみしてるから、それは祓う必要がありません」と言っていて。
――ええっ!? 監督はそのお二人と接点があるんですか?
前田 なにもないんです(笑)。会ったこともないから、狐につままれる気持ちでした。「そういえば、大林監督っていつ亡くなったんだろう?」と思って調べたら、私が劇場公開デビュー作を撮った2020年だったんです。そこから私の人生は映画の方にどんどん引き寄せられていったよなぁと思いだしたりして。
――そこには大林監督の見えざる力が働いていたかも知れない(笑)。
前田 そこから、なんとかもう一回頑張ってみようと思って、池袋シネマ・ロサに「もう一度、チャンスをくれませんか?」とお願いして、アンコール上映が決まりましたし。それをキッカケに前作でお世話になった、横浜シネマ・ジャック&ベティに連絡したら、そちらでもチャンスをいただけて。いまは「本当に巻き返せるのか?」という、瀬戸際にいる感じですね。
――それも「横浜、池袋が連日満席になって、借金が返せました」だけじゃなくて。なにか監督が想像もしないような展開や巻き返しが生まれるキッカケかも知れませんよ?
前田 ついてなさすぎるって思ってたけど、ちょっとずつプラスの要素が増えた気がしてるんです。自分の足で稼ぐ大切さとか、口コミの強さとか、これまでの宣伝活動で実体験として学んたこともいっぱいあって。一人や二人が少し言ってくれるだけで、その力が大きくなっていくというのを学んだから。今度の横浜と池袋では、そういう地盤を強くしたいという思いがすごく強いし。「池袋の封切上映の時とは、違う形で結果が出せるんじゃないか?」と思って、いまはすごくドキドキしています。
――ここまで頑張って宣伝活動をしてきた効果もきっとあると思いますし、あの頃よりも強くなった監督自身がいまも諦めずに宣伝活動を続けていて。今度の横浜、池袋での公開は、きっとあの時と違った景色が待っていると思います!
前田 数字の話もいっぱいしちゃったんですけど、やっぱり、私の作品がたった一人のお客さんに届くことが大切だと思っていて。たった一人のお客さんが見てくれて「良い時間だった」と思ってくれるという、一番の喜びを見失いそうになるのが怖いし、そこは絶対に見失いたくないと思っているので。数字も大事ですけど、なによりそういう時間を一日でも長く伸ばしたいと思っています。
『国宝』とか話題になってますけど、ああいう誰もが知ってるレベルに到達するのって、いまの時代は本当に難しくて。何かのきっかけでたまたま知ったっていう、そのたまたまを増やしていくしかないと思うんで。とにかく、たまたまをいっぱい投げて、「どんなたまたまがぶつかるのか?」みたいなところで頑張るしかなくて。本当に挫けそうになった時もあったけど、振り返れば様々な人のおかげでなんとか踏ん張れてる私がいることに感動しますし、改めて感謝しています。
――このインタビューも誰かのたまたまになると良いですね。では、最後に横浜と池袋の上映に向けての意気込みとメッセージを下さい。
前田 横浜と池袋の上映は、この小さな映画が、「まぁまぁ頑張ったね」で終わるのか? 次に繋がる不思議な芽が出てくるのか? その分岐点になるだろうなと思っています。ここでワーッと盛り上がってくれたら、いままでご縁のなかった地域に飛び火したりして、「あれ? また火がついてない?」って展開もあると思ってるので。ここから、さらに面白い風景が描けるように頑張りたいです。すでに観ている人もまだ観ていない人も、ぜひアンコール上映に足を運んで下さい。
『KYロック』関東上映
2025年10月18日(土)〜
横浜シネマ・ジャック&ベティ
2025年11月8日(土)〜
池袋シネマ・ロサ(アンコール)
『KYロック』HP:https://kyrock-movie.com/